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モバイルコンピュータに生まれ変わる「iPhone」-SDK公開が与える自由度

2008年2月になれば、ついに「iPhone」をモバイルコンピュータと呼べる日がやってくる。

2007年6月下旬の発売以来、iPhoneに関する批判の大半は、(AT&Tのネットワークでしか利用できない問題や値下げ問題をひとまず置いておくと)華々しくデビューを飾ったiPhoneの開発環境からサードパーティーの開発者を締め出すという同社の決定に向けられてきた。最高経営責任者(CEO)のSteve Jobs氏は、iPhone向けウェブアプリケーションの開発は可能な点を指摘して、開発者をなだめようとしたが、これはまるで10代の若者に向かって、「君は車を持ってはいけない。でも、この自転車だって今まで見た中で最高だろう?」と言うようなものだ。

だが、Jobs氏率いるAppleは、最初の資金調達に成功して最近シリコンバレーに乗り込んできたばかりの新興企業ではない。コンピュータの歴史を振り返ってみても、もしMicrosoftとAppleがサードパーティーのアプリケーション開発者にPCやMacのプログラム開発を認めなかったなら、パーソナルコンピュータは今ほど人々の生活を変えるものにはなっていなかったはずだ。この2社だけでは、アイデアの点でも人的リソースの点でも限りがある。ユーザーがコンピュータでやりたいすべてのことを、1つの企業が実現するのは不可能だ。

というわけで、当然の成り行きで、Jobs氏は米国時間10月17日、サードパーティーによるiPhone用アプリケーション開発に関する計画を発表した。この発表により、安全で信頼できるiPhone用アプリケーションを開発するためのツールやノウハウを詰め込んだソフトウェア開発キット(SDK)が、2008年2月からサードパーティーの開発者に提供されることが明らかになった。これで、脆弱性を利用した「ロック解除」プログラムを使わなくてもアプリケーションの開発が可能になるうえ、ユーザー側も保証を無効にすることなく、信頼できるアプリケーションをiPhoneに追加できる。

ただ1つ予想外だったのは、SDKの公開時期だ。これについては、2007年10月という意見もあれば、2008年6月に開催される「Worldwide Developers Conference」(WWDC)までリリースされないと予想する向きも(他でもない、私自身も含めて)あった。

Appleは、SDKの公開にこれほど時間がかかる理由について、サードパーティーによる開発に向けて可能な限り「オープン」な方法をとりたいが、その一方で、iPhoneが軌道に乗る前に致命傷をもたらしかねないウイルスやマルウェアを防ぐ必要があるからだ、と説明している。iPhoneに搭載された「OS X」は、本質的には「Mac OS X」から電話に不要な部分をすべて取り除き、バッテリーで長時間駆動できるようプログラムを小型化、簡略化したものだ。OS Xのコアには、長年にわたり安全性が実証されてきたUNIXの基盤が採用されているが、どうやらAppleは、iPhone向けOS Xの開発段階でセキュリティホールが生じていないことを確認するまで、iPhoneでの信頼性を保証できないと感じているようだ。

だがおそらく、こうした懸念は2008年2月には払拭されているだろう。というのも、それまでにAppleが「OS X 2.0」を出荷するか、「Mac OS X Leopard」の技術を借りてiPhoneの安定性を高めるか、あるいはその両方の作業を済ませているはずだからだ。Jobs氏は、開発者がiPhoneで稼動するアプリケーションを開発するためには、何らかのデジタル署名アーキテクチャを厳密に守るよう義務づけられることになるだろうとほのめかしている。これはNokiaが採用しているものと同じようなものと思われる。開発者コミュニティーの賛同を得られるかどうかは、これからの成り行きを見守るしかないが、開発者の署名入りのアプリケーションでも、iPhoneが完全にロックされた状態よりは良いとして受け入れている開発者もいるようだ。ただ、知ってのとおり、待ちきれずに着手した開発者もいる。

iPhoneが発売されるや否や、ハッカーたちは、サードパーティーによるiPhone用アプリケーションの開発やインストールを可能にすべく、「ロック解除」やハッキングに取りかかった。進取の気性に富む開発者はiPhoneの新しい利用法を考え出し、一夜にして、小粒ながら有用なアプリケーションが次々と誕生した。

だが、問題はAppleがこれを認めなかったことだ。事実、サードパーティー製アプリケーションをiPhoneへインストールすることは契約に違反する行為で製品保証は無効になると、iPhoneの使用許諾契約に明記されている。先ごろ公開され、自作アプリ派の非難の的となっているソフトウェアアップデート1.1.1ではこの方針が強化され、いかなるサードパーティーのアプリケーションもiPhoneから一掃されてしまった。

インターネット上に怒りが噴出し、Jobs氏とAppleに対して、ユーザーのコンピューターにまつわる生活の全てに干渉し、かじりかけのリンゴ(Appleのロゴマーク)だらけにすることにしか関心がない、支配欲に取り憑かれた連中だとの罵り文句が飛び交った。Apple関連の話題をいつも面白い切り口から取り上げる「The Macalope」氏は、AppleのSDKに関する発表を受け、17日には早くも「さて、次の不満の矛先はどこ?」と題したブログを投稿している。

今回発表したSDKにより、人々のiPhoneに対する考え方は変わるだろう。例えばResearch In MotionやMotorolaなら、企業向けの電子メールへ安全にアクセスできる「BlackBerry」および「Good Mobile Messaging」ソフトウェアをiPhoneに移植することも可能になる。また、サードパーティーのブラウザ開発者は、現行のiPhone向けSafariが対応していないFlashやJavaをサポートする製品をリリースできるわけで、これが実現すれば、真の意味でフル機能のインターネットをポケットサイズに収めたことになる。さらに、週末になると地下の一室でソフトウェア開発に励む独立系開発者は、タッチスクリーン・インターフェースの長所を生かしてあっと驚くような素晴らしいことができる全く新しいアプリケーションを考え出し、そのソフトウェアを使って事業を立ち上げるはずだ。

少なくとも今の段階でSDKがサポートしない機能の1つは、SIMロック解除だろう。Appleの広報にこの質問を電子メールで投げかけてみたが、まだ返答はない。しかし、AT&Tが現段階でアンロックを許すとは考えられない(これは、AT&Tがどんな選択を迫られたとしても未来永劫アンロックを許さないだろう、という意味ではない)。AppleとAT&T間の独占契約期間は2年から5年と報道されており、そうであれば、Appleが今回のSDKでiPhoneのロック解除を認めるということは、不可能でないにしろ、可能性は低いはずだ。

多くの点からみて、これは残念なことだ。いつか、通信キャリアに束縛されている今の時代を馬鹿馬鹿しく思い返す日がやって来るだろう。もし、契約するケーブル会社やDSLプロバイダーがユーザーの購入するパソコンを指定したり、さらにその後、そのパソコンを米国内や海外のサービスが提供されない地域に移動させたらインターネットにつなげなくなったりする、そんな事態など想像できるだろうか? しかしこれが、既存のシステムの中で画期的な変化をもたらそうと取り組むと、革新には難色を示しがちな既存の無線キャリアの影響力が立ちはだかるという、何度も繰り返されてきた携帯電話業界のジレンマだ。

Appleが正式にSDKをリリースするまで、そしてリリース後も、非公式なハッキング活動は続くだろう。なぜなら、AppleがAT&T以外のキャリア向けのバージョンをリリースする日まで、iPhoneのロック解除への需要はあると考えられるからだ。Appleは他のアプリケーションに対していつかはiPhoneを開放しなければならないことはわかっている。ゆえに、AT&T、O2、Orangeやその他のiPhone独占提携企業と契約する意向が全くない層にもiPhoneを売り込むべく、決断を迫られる日は来るはずだ。

だが、今のところはそこまでの段階には達していない。iPhoneとサードパーティーアプリケーションに関する全ての大騒ぎが始まって以来、私の頭にはある思いが繰り返し浮かぶ。それは、社会として見た時、われわれの興味関心がほんの一瞬しか持続しなくなっているということだ。人々はiPhoneが欲しいだけでなく、やってみたいと思ったことがすぐに実現しないと満足できない。そして、そうした刹那的な満足感が得られないと、悪意を持った大メーカーが自分を侮辱しているように感じ、こんなものは全くだめだと言って叩きにかかるのだ。

確かに、こんな不満を言うへそ曲がりが私以外にも3800万人はいるということくらい、自分でも分かっている。しかし、コンピューティングの新時代が花開くまでには、時間がかかるのだ。今では話題の機器をポケットにいれて運べるようになったものの、それを抜かせば、まるで1980年代に戻ったようだ。ガジェット好きや生産性向上で頭が一杯の管理職だけでなく、本当の意味での一般ユーザーが、いつでもどこでも使えるインターネットや、広義のコンピュータの力を利用してできることの可能性に気付きはじめている。

iPhoneそのものは、われわれを目指す未来に連れて行ってくれる機器ではないかもしれない。だが、現在市場に出回っているどんな製品よりも、その目標に向って議論と開発を活性化させるために多くの貢献をしている。2008年以降は、今よりずっと面白いことになりそうだ。特にAppleが重い腰を上げ、現在iPhoneに採用されているEDGEよりもはるかに広帯域の接続が可能な3Gネットワークの採用を決めてくれれば、その世界はぐっと広がるはずだ。

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